宙ツーリズム特別インタビュー企画
宙ツーリズムアンバサダー
KAGAYAさんインタビュー前編
日本国内だけでなく世界中を旅し、様々な宙と出会ってきたKAGAYAさん。
昨年公開された映像作品「星の旅」は北半球から南半球まで世界各地の星空と出会う旅がテーマ。
まさに、宙ツーリズムが目指す「“宙”ד旅”」を表現した作品です。
今回は「星の旅」を中心に、KAGAYAさんが旅をして感じていること、宙の魅力などをうかがいました。
(聞き手、構成:木原 美智子、写真:飯島 裕)
「1人で楽しむのではない」というモチベーション
―“星の旅”を拝見させていただきました。あれだけ多くの世界各地を巡られる原動力は何でしょうか?
KAGAYA:私は子供の頃から図鑑を見ることがすごく好きで、そこに載っている世界の遺跡とかに大人になったら行って見たいなって思っていました。大人になって自由に動けるようになったので「自分の目で見てみたい、体験してみたい」という気持ちが第一ですね。
―子供の頃に図鑑を見たことが原動力のベースで各地を旅されているのですね。
KAGAYA:そうですね。ただ、そうは言っても行くのがすごく大変な場所もあります。そこには時間と労力がかかるので、夢プラスもう一つモチベーションがないと行くことは難しいですね。
―そのモチベーションになっているものというのは?
KAGAYA:行くのが困難な場所ってなかなか他の人も行けないですよね。でも、そこに私が行って「何を見て、何を感じたか」というのを大変な苦労してでも伝えることができれば、たった一人で楽しむだけじゃない。この気持ちがモチベーションになります。twitterとかfacebookとかSNSのおかげで最近そう思うようになりました。行った現場からその様子を伝えられるようになったことが活力の源になっているというか。
―SNSならリアルタイムで情報や光景を共有できますもんね。
KAGAYA:そうですね。伝えることができるし、共有できる。
自分の守備範囲で旅行を楽しむ
KAGAYA:最近は旅行とかあちこち風景を楽しむっていう実体験をするのが必ずしもいいとは思えなくなってきました。なかなか旅行できない人もいるし、家から出られない人もいるわけだし。人それぞれなので皆さんのできる範囲でいろいろ楽しめばいいと思います。
本当に旅行が好きな人はどんどん旅して楽しめばいいんですけど、なかなか全員そういうわけにはいかないので。お出掛けを楽しむタイプの人と、家で誰かが行った映像とかを楽しむタイプの人がいて、どちらが良いとも言えないですよね。むしろ家でいろんな人の体験を見るほうが、いろんな冒険家がしてきたすごくたくさんの体験が共有できる。追体験ができることはおもしろいし、それこそが文化だと思いますね。見たものを伝えていく、それをあたかも自分が見たかのように知識として取り込んでいく。
―「追体験できる」という考え方はすごくおもしろいですね。
KAGAYA:そうですね。人それぞれだから、私は人に旅行に行きましょうというのはあんまり薦めないですね。行きたい人が行けばいい、無理むりに誘い出して行かなくても良いって。
―たしかに。無理して行かなくても、KAGAYAさんの“星の旅”を見て世界一周することができました。
KAGAYA:それがあの作品で一番体験ほしいことですね。旅行先で果たして目的のものが見えるのか分からないじゃないですか。星空とかオーロラ、皆既日食ってなると、これは運で見られないこともありますよね。そういうのを踏まえて「私は見に行く」という人もいれば、「見られるかどうか分らないから行くのは遠慮します」という人もいます。それなら、実際に見に行って写真を撮ってきた人の作品を見て楽しむ旅行もあると思いますね。
―バーチャルツアーみたいなかんじですね。
KAGAYA:宙ツーリズムのコンセプトに合っているのか分からないですけどね(笑)。このサイトを見て「絶対に旅行へ行かなきゃ」という考えにならないでほしいな。むしろ自分の手軽に行ける範囲で楽しんでもらえたらなって思いますね。
―宙ツーリズムは必ずしも「世界各地を旅行して」というわけではなくて。プラネタリウムでもいいし天文台とかの宇宙の施設でも楽しんでほしいと思っているので、皆さんに合った方法で宙を楽しんでもらいたいですね。
KAGAYA:そうですね。国内でも天の川を見られる場所はたくさんあるので、そういったところのイベントやツアーに気軽に参加するとか。それで国内旅行に慣れてきたら次は海外行こうかなとか。自分が安心してできる範囲でリラックスして旅を楽しむことが一番。むしろ、わくわくする旅は何かと考えるほうが楽しめると思いますね。私も本当に行きたいわくわくする場所にしか行かないですから。
普段と違うから感動する
―わくわくするものは、まだまだ尽きないですよね。世界各地の土地ごとにわくわくする星空の魅力があると思いますが、一方で、どこの星空にも共通する魅力はありますか?
KAGAYA:日本から遠いところにいるのに子供の頃から見慣れている星が見えると、ほっとしますね。全然違う遠い場所に来たはずなのに見慣れている星が見えていて、でも僕が見慣れている方角とは違っている。その違いで初めて「いつもと違う世界に来ちゃった」という不思議な魅力はありますね。
―普段から見ていないと違いは分からないですからね。それを踏まえると、KAGAYAさんのtwitterで発信されている「空をご覧ください」というワードはシンプルだけど大事なことだと思います。
KAGAYA:そうですね。見慣れているっていうのが良いことなのかもしれないですね。「何が当たり前で、何が当たり前じゃないのか」ということは毎日見ているから分かると思うので。
―たしかに。普段の基準がないと、それが見えることがどれだけすごいのかも気付けない。
KAGAYA:例えば、都会の星空でもよく見れば星は見えます。それを普段見ていると田舎の星空の美しさが分かって、より感動することができる。星が綺麗な田舎や南半球へ行く前に、まずは自分がいる範囲からの星を見ておいてほしいです。
―普段から星をみておくことも宙ツーリズムには大切な準備のひとつですね。
やさしい旅行とやさしい現象
KAGAYA:「空をご覧ください」と、お声掛けするのは自分で見ておすすめしたい時だけです。SNSのおもしろいところは見たらすぐお知らせができる。これは本とか雑誌ではできないことですからね。タイミングはすごく大事だと思います。
例えば、曇天で星が見えない時に「見てください」と言っても、がっかりする人がいるのではないかなと。だから、自分で宙を見て確認かすることが大前提で、しかも一部の地域だけが晴れているときはつぶやかないです。「うわ、見えないわ」とがっかりする人が多いと逆効果かなと思って。
あと、苦労しないと見えものは避けています。自分でどんどん調べて進んで星を見る人よりも「人に薦められたから見てみようかな」という人に伝えかけて「あ、見えた。嬉しかった」と感じる人を増やしたいなと思います。宵に見えるものや皆が起きている時間帯に見える難易度の低いものをおすすめするようにしています。
―「星は気になるけど、やっぱり難しそう」というのがひとつの壁になってしまいますもんね。
KAGAYA:だいたいの人が「すごい」って思わないと。私はマニアックな面もあるので、それはつぶやかないでおこうとはしていますね。
―それはそれです気になりますけどね(笑)。
KAGAYA:これはおもしろいとは思わないだろうなって思って(笑)。そこはぐっとこらえています。
―同じように宙ツーリズムも「星や宇宙は難しい」という気持ちのハードルは下げたいとも考えていて。そういった情報発信の方法も大事だと思います。
KAGAYA:現象を多少選んで伝えて、初心者が良さを分かってきてだんだん好きになって。リラックスしたまま自然に好きになっていくことがいいと思います。
そのためには、やさしい旅行、やさしい現象が初めは良いと思いますね。宙ツーリズムもぜひそこを大事にしていただきたいですね。
KAGAYA(カガヤ)プロフィール
宇宙と神話の世界を描くアーティスト。プラネタリウム番組「銀河鉄道の夜」が全国で上映され観覧者数100万人を超える大ヒット。
一方で写真家としても人気を博し、写真集『星月夜への招待』『天空讃歌』『悠久の宙』『星と海の楽園』、フォトエッセイ集『一瞬の宇宙』を刊行。写真を投稿発表するTwitterのフォロワーは60万人を超える。
天文普及とアーティストとしての功績をたたえられ、小惑星11949番はkagayayutaka(カガヤユタカ)と命名されている。